細胞へのウイルス感染実験での遠心機活用例

慶應義塾大学 医学部 先端医科学研究所
遺伝子制御研究部門(佐谷秀行教授研究室)
特任助教 大西 伸幸 先生  博士(医学)

2005年4月、日本学術振興会特別研究員 DC1
2008年、神戸大学大学院 医学系研究科 博士課程修了(医学博士)
2008年4月、神戸大学大学院 医学研究科 学術推進研究員
2008年10月、慶應義塾大学医学部 特任助教

私の研究テーマ

悪性脳腫瘍、特にグリオブラストーマ(glioblastoma multiforme : GBM)は原発性脳腫瘍のうち悪性度が最も高く、浸潤の早さから手術による全摘は困難とされ、放射線・化学療法に抵抗性を持つことから極めて予後不良な悪性腫瘍である。GBMの性状を詳細に理解して新たな治療戦略を考案するためには、適切な発がんモデルの構築が必須である。
これまでに我々は、マウス正常神経幹細胞にレトロウイルスを用いてがん遺伝子を導入後、同系マウス脳内に移植することで、ヒトGBMに酷似した特徴を有するマウス脳腫瘍モデルを構築してきた。また、piggyBacシステムを用いてマウス正常神経幹細胞のトランスポゾン配列にがん遺伝子を挿入することで、マウス脳内で腫瘍を形成する人工がん幹細胞 (induced Cancer Stem Cells : iCSCs)の樹立に成功している。さらに、より臨床的なヒトの発がん過程を再現することを目的に、マウス脳への直接がん遺伝子導入による簡便かつ安定した新規脳腫瘍モデルの開発を進めている。
これら脳腫瘍モデルを用いて詳細な解析を行うことで、脳腫瘍の発がんおよび悪性化過程における分子基盤を明らかにしたいと考えている。

【Ex vivo システムを用いたレトロウイルス感染による脳腫瘍モデルの構築】

レトロウイルス感染による脳腫瘍モデルの構築

【piggyBacシステムを用いたマウス脳への直接がん遺伝子導入による脳腫瘍モデルの構築】

マウス脳への直接がん遺伝子導入による脳腫瘍モデルの構築

私の遠心機使用背景

当社製50mLコニカル管(最大遠心加速度42,200xg)を用いた、ウイルス濃縮時間の短縮

正常神経幹細胞にレトロウイルスを効率良く感染させるにはバッファー交換ならびにウイルス価を上げるためにpackaging cells培養上清からのレトロウイルス遠心濃縮が必須である。従来の高速冷却遠心機(MAX:15,000rpm/30,190xg)で条件検討を行った際には少なくとも3時間以上の遠心が必要であった。himac高速冷却遠心機(R18Aアングルローター)を用いることで、1時間以内の遠心で十分量のレトロウイルス濃縮が可能となった。

himac遠心機のお勧めポイント

himac独自のR18A用高xg対応50mLコニカル管

無血清培地を用いたpackaging cells培養上清をR18Aアングルローターを用いて42,200xgで1時間遠心したところ、レトロウイルスが含まれると思われる明らかな白色沈殿が得られた。
感染させる細胞を準備するタイミングを考えるとウイルス濃縮時間を1時間に短縮できたことは非常に有用であった。

【ポイント】

ウイルス濃縮をはじめ目視しづらい沈殿物を扱う際、今まで超遠心機(スイングローター)で行われていたようなプロトコールも、高速冷却遠心機(アングルローター)に置き換えられ、金額面も○。「使い慣れたコニカル管の使用により、操作性も良くなったと好評です。」

【himac独自のR18A用高xg対応50mLコニカル管】

①最大遠心加速度42,200xgまで使用可能【実容量45mL/本】
②V底なので、丸底に比べて沈殿物が底に集中しやすい
③密封性の高いスクリューキャップ付き。安全性アップ
④電子線滅菌処理済み
⑤容量目盛&書き込みスペース

【mCherry 発現ベクター】

mCherry 発現ベクター

レトロウイルス感染3日後のmCherry発現確認ではhimac高速冷却遠心機を用いた場合に従来の冷却遠心機よりも5~10倍の感染効率が得られた。 さらに2週間後にピューロマイシン選択を行うことで、ほぼ100%mCherry陽性の正常神経幹細胞を樹立することができた。

フローサイトメーターを用いた mCherry蛍光強度の検出

フローサイトメーターを用いた mCherry蛍光強度の検出
縦軸:相対細胞数、横軸:蛍光強度