光合成タンパク質複合体精製における遠心機活用例

基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門(皆川純教授研究室)
助教:得津 隆太郎 先生  博士(生命科学)

2011年、北海道大学大学院博士課程修了
同年、基礎生物学研究所研究員
2013年、基礎生物学研究所環境光生物学研究部門 助教

私の研究テーマ

光合成反応は、古くから多くの研究者の興味を引きつけ、そのメカニズムの解明が進められてきました。
一方で、自然界のような刻々と変化する環境下において、光合成生物(植物や藻類)がどのように環境適応しているのかは未だ謎が多く残されています。
例えば、図aに示したように地上に降り注ぐ太陽光は、季節、日周に伴う変化だけではなく、雲、風、水の揺らめきといった、とても短い時間(数秒から数分)でも急激に変化するため、“環境変化が起きたまさにその時”に対応しなければなりません。特に、比較的弱い光の下で光合成が行われている場合、突然降り注ぐ木漏れ日や雲の切れ間からの直射日光は、瞬間的に過剰なエネルギーとなり、光合成生物にとって深刻な被害をもたらしかねません。
多くの光合成生物(植物や藻類)はこのような危険を回避する為、過剰な光エネルギーを受け取った時のみ光合成反応に利用せず消去する仕組み (NPQ:Non‐Photochemical‐Quenching、非光化学的消光)を備えています。NPQは、過剰な光エネルギーの一部を熱エネルギーへと変換して散逸させることで、光合成反応系への負荷を回避するメカニズムです。

私は、上記NPQの分子メカニズムの謎を解き明かすため、日々研究を進めています。これまでに、数十リットル単位で大量培養した緑藻(写真b)から『生きた状態』の光合成タンパク質複合体の精製を行い(写真f)、NPQが光化学系Ⅱと呼ばれるタンパク質超複合体の中で起きていることを突き止めました。
現在は、光化学系Ⅱタンパク質超複合体の中で『どのように』NPQが起きているのかを明らかにするため、『より完全な』タンパク質超複合体の精製と、その解析を進めています。

図a:陸上や水圏における様々な光の性質変化

研究室風景

皆川研究室は、超遠心機2台、高速冷却遠心機2台他、himac遠心機が10台以上並ぶ。

研究室風景

写真a:クラミドモナスサイズ約10-20μmの単細胞の光合成生物です。
写真b:光照射に伴う熱の影響を排除するため、大型冷却水槽内で培養します。

私の遠心機使用背景

R9A2ローター(1,500mLボトル×4本)を使用した、
効率的なクラミドモナスの大量回収/ショ糖密度勾配による生きた光合成タンパク質の精製

私達の研究室では、陸上植物に似た光合成システムを持ち、なおかつ大量に培養可能で、遺伝子操作が容易なモデル光合成生物である緑藻クラミドモナス(写真a)を用いています。大量培養したクラミドモナスの回収、光合成タンパク質複合体の精製には、回収用冷却遠心機、超遠心機は必須です。
以前は中容量のアングルローターで細胞回収を行っていましたが、細胞やタンパク質の状態を保つために迅速に回収するにはボトル容量に合わせて細胞培養量を少なくする必要がありました。大容量6Lローター(R9A2)を用いることで、より効率的に研究を進めることが可能になりました。
また、様々な光合成生物から、それぞれが持つユニークな光合成複合体を『生きたまま』精製するためには、P28S、P40STといった13mLや40mLチューブ用の超遠心スイングローターを用いています。

himac遠心機のお勧めポイント

R9A2アングルローター

【当社がこだわった、おむすび形 1,500mLボトル】

  1. 「1本あたりの容量が多いから本数を減らせて作業効率もUPします。また、ボトルがおむすび形なので、デカントする際もボトルの角に上澄み液が集中して、丸型ボトルより廃液し易いと好評です。」
  2. 「大容量ボトルには珍しい『任意の量』で遠心が出来るので、空で回しても問題ありません。少しだけ培養液が余った際などには役に立つ特長だと思います。」
himacがこだわった、おむすび形 1,500mLボトル

写真c:1.5Lボトルデカント
写真d:上から見た写真
写真e:その後超遠心機スイングローターで単離したチラコイド膜を可溶化して、密度勾配遠心法で分画。
写真f:ショ糖密度勾配遠心をすれば、様々な光合成生物から、それぞれが持つユニークなタンパク質複合体を精製することが出来ます。