himac APPLICATION

No.71 MARCH 1997

himac エルトリエータ細胞分離システムによる株化細胞HL-60の分離

機種:高速冷却遠心機用R5E形エルトリエータロータ

himac エルトリエータ細胞分離システムを用いて、PDBu(Phorbol 12, 13-dibutyrate)により分化誘導した株化細胞HL-60を細胞周期毎に分離した例

himac エルトリエータ細胞分離システムは遠心力だけでなく、遠心力に対抗する流れの力との二つの力を利用して、細胞レベルの大きさのもの(2~50μm程度)を分離するシステムです。
このシステムを利用すると、遠心力だけでは難しい細胞のサイズごとの分離が可能となります。
そのため、株化細胞などの増殖の際に生じる各増殖段階の中から、同一周期にある細胞の分離に有効となります。
従来のアフィディコリンのようなDNA合成阻害剤などを用いる必要がないため、細胞に物理的、代謝的に損傷を与えることがなく、短時間に主な周期の細胞を高純度、高回収率で分離することが可能です。*1)
ここでは、PDBuにより単球系に分化誘導させた株化細胞HL-602,3)をG0/G1期とS期+G2/M期にそれぞれ分離しました。

1. 分離結果

(1)フラクション1にG0/G1期の細胞がほぼ100%の純度で得られました。
(2)フラクション5にS期+G2/M期の細胞が約90%の純度で得られました。

  • 以下に分化誘導前(Fig. 1)、分化誘導後(Fig. 2)、フラクション1(Fig. 3)、フラクション5(Fig. 4)の細胞のフローサイトメトリーによる測定結果を示します。
    (Propidium Iodide staining and Becton Dickinson flow cytometry analyzer analysis ; FACScan, Becton Dickinson)

表1. 分離条件と結果の一覧表

フラクション 回転速度
(rpm)
流量
(ml/min)
分画時間
(min)
分画量
(ml)
細胞数
(×107コ)
細胞の割合
(%)
備考
分離前 - - - - 64.0 G0/G1:59%
S:38%
G2/M: 3%
Fig.2
1 2,000 14 14.2 200 5.8 G0/G1:100% Fig.3
2 2,000 17 11.8 200 20.0 -  
3 2,000 19 10.5 200 7.3 -  
4 2,000 21 9.5 200 5.2 S:67%  
5 2,000 23 8.7 200 3.4 -  
6 2,000 25 8.0 200 2.0 S+G2/M:95% Fig.4
7 2,000 27 7.4 200 1.0 -  
合計 - - 70.1 1,400 47.0 -  
  • 続いて、G0/G1期及びS期+G2/M期細胞のアポトーシスへの感受性を比較したところPDBuで分化誘導したHL-60では分化誘導前と異なり、G0/G1期細胞の方がアポトーシスを起こし易いことが明らかになりました。

2. 分離方法

(1) サンプル:ヒト前骨髄性白血病由来細胞株HL-60、5×107~3×108 cells
(2) バッファ:PBS(Dulbecco's PBS)、0.01(w/v)%EDTA-2Na及び1(v/v)%FBS添加

(3) 分離手順

  1. himac CF7D2形 小形冷却遠心機を用い、1,000rpm、10分(4℃)遠心し、細胞を集める。
  2. PBSバッファまたは新鮮培養液10mlに再懸濁する。
  3. 回転速度2,000rpm、流量14ml/minでサンプルを供給し、100ml程分画した後、表1に示した条件で分離を行う。
  • 本実験は自治医科大学・血液学研究部門・造血発生学教室との共同研究によるものであり、この応用例が第56回日本血液学会総会*4)や下記の論文*5)に報告されています。

    (参考文献)

    1. HIMAC APPLICATION No.65(1994).
    2. Collins S.J., Gallo R., Gallagher R.E., Nature, 270, 347(1977).
    3. Furukawa Y., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 87: 2770(1990).
    4. 照井康仁ほか、第56回日本血液学会抄録集, p. 154(1994).
    5. Terui, Y. Furukawa, Y., Kikuchi, J., Saito, M., J. Cell. Physiol., 164, 74(1995).